(具体例)
私の父は、個人病院を経営していましたが、今年7月に亡くなりましたので、相続人の私が事業を承継しました。従業員には現在も勤務してもらっていますが、父の死亡により雇用契約が終了したものと思われますので、その勤務期間に応じた退職金を支給する予定です。
この退職金は、父の準確定申告における事業所得の必要経費にしてよいでしょうか?
なお、私は病院の承継にあたり、新たに同病院の開設者として医療法上の許可を受けています。
アドバイス
退職金は、お父様の事業所得の必要経費として認められません。
納税者が死亡した場合の必要経費の取り扱いについて
必要経費に算入すべき費用は、「別段の定め」のある場合を除いて、その年に債務の確定したものとされていますが、納税者が死亡した場合は死亡の時までに債務が確定したものに限られます。
「別段の定め」には、事業を廃止した後に生じた必要経費についての特例があります。
質問の場合、「別段の定め」の対象になるかについて
お父様の事業はあなたに承継されていて廃止されていません。
なので、この特例の適用は受けられません。
父の死亡による従業員との雇用関係について
まず従業員との雇用契約が、使用者であったお父様の死亡によって終了したかどうかを検討しなくてはなりません。
これについては、原則として、雇用契約上の使用者の地位は相続の対象になりますので、雇用契約はお父様が死亡したとしても終了しません。
これは、たとえ病院の開設許可がお父様の死亡によってなくなってしまった場合も同様です。
なので、お父様の死亡により、使用者の地位があなたに相続された結果、従業員との雇用関係は継続されることになります。
父の死亡時に退職金の債務は確定するかについて
上述のとおり、従業員との雇用契約は継続されていますし、従業員は現在も病院勤務を続けているわけですから、従業員に退職の事実はなく退職金を支払う理由がありません。
よって、債務が確定していたということはできません。
支給した退職金について
仮に、あなたが退職金を支給した場合は、その退職金は従業員の退職の事実による支払いではないので、原則として、従業員への給与(賞与)になり、事業所得の必要経費になります。
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